青野武市(あおのたけいち)『金赤被牡丹文蓋物(きんあかきせぼたんもんふたもの)』、日本2002年。
「輪郭をぼかすようにグラヴィールを施すことで、牡丹の花の豊かなボリューム感が表現されています。」
町田市立博物館がその45年の歴史に幕を閉じるということで、現在『工芸美術の名品』を集めた最終(ファイナル)展が開かれています。
本日から会期後半となりますが、今回は会期前半に展示されていた作品の一部をご紹介します。
「」内の説明は、博物館に準じます。
鉄絵牡丹文瓶(てつえぼたんもんへい)、中国/磁州窯、12世紀。
「青花が創造される前に一世を風靡した鉄絵の優品。やわらかな象牙色の肌に漆黒の鉄絵で描かれた簡略な文様には、日本人好みの和やかさがある。」
現代でもアジア雑貨のお店で売っていそうな感じですね。
鉄絵草花文枕(てつえそうかもんちん)、中国/磁州窯系、金時代 13世紀。
「陶器製の枕。上面には一枝の花を可憐に描いています。使わない時は立てて寝室のインテリアにしたそうです。」
現代にもマッチしそうで、とても好みです。
白釉緑彩花文盤(はくゆうりょくさいかもんばん)、ミャンマー、15〜16世紀。
「乳濁した独特の釉で描かれた大胆な文様は、同じものが殆どない1点ものです。大らかな文様にもかかわらず、作りや仕上げは、非常に丁寧です。」
このお皿も、食卓に出したい。
ドラゴンステム・ゴブレット、オランダ、17世紀。
「脚部に龍のような飾りがついたゴブレットです。青色のねじり入りのガラス棒を曲げたり、道具で挟んで鰭(ひれ)状にしたりと、技巧を凝らした作品です。」
草花文(そうかもん)コンポート、イタリア・ヴェネチア、16世紀末〜17世紀初。
「15世紀のヴェネチアで開発された無色透明なガラスは水晶のような透明さからクリスタッロと呼ばれました。」
アントニオ・ネリ、『ラルテ・ヴェトラリア』イタリア語初版原書、イタリア、1612年。
「イタリア、フィレンツェの修道士であったアントニオ・ネリによって著され、1612年にイタリア語の初版本が出版された『ラルテ・ヴェトラリア(ガラス製造術)』は、秘術とされるガラスの技法を世に明らかにした、世界で初めての画期的な書物でした。著者のネリは、当時の知識階級の間で広く使用されていたラテン語ではなく、一般市民も読めるようにあえてイタリア語でこの本を著しました。『ラルテ・ヴェトラリア』は初版の出版から50年が経過した1662年に英語版、1668年にラテン語版、1679年にドイツ語版、そしてフランス語版が1752年に出版されました。翻訳が進むにつれ、各訳者の所見や、理解を手助けするための図版が加えられるようになり、分厚い書物になっていきました。各国語に翻訳されたこの技法書は、イタリアの優れたガラス技術がヨーロッパ各地に広まる大きなきっかけとなったのです。本書はその貴重なイタリア語版の初版原書です。」
この展覧会で初公開。思い掛けずフィレンツェの修道士で、親近感が湧きます。
フランツ・ザッハ『グラヴィール狩猟文ゴブレット』、ドイツ、19世紀。
「唐草の中に槍を持った狩人と猟犬、獲物のイノシシが抑揚のあるグラヴィールで表現されています。」
グラヴィール鹿文蓋付(しかもんふたつき)ゴブレット、ボヘミア、19世紀前半。
「グラヴィールを巧みに用いることで、奥行きを意識した複雑な情景が表されています。」
懐中時計が何点かあり、こちらはその一部。
からくり付クォーターリピーター付懐中時計、スイス、1820年頃。
「この懐中時計には秘密の仕掛けがあり、下部のボタンを押すとヤギのついているパネルがスライドし、裸の男女が絡み合う姿が見えるようになっています。」
ボタンを押すことはできず、その姿を見ることはできませんでしたが、面白いですね。
前1世紀〜後1世紀という、こんな古い物も。
パテラ杯、伝エジプト出土。
「文様入りのガラス棒を短く切って型の中に敷き詰めた後、窯で熱して器の形にしています。イタリア語で『ミレフィオリ(千の花)』と呼ばれる技法です。
ヴェネチアへ行くと、今でもよく見る技法です。
白地青被葡萄栗鼠文瓶(しろじあおきせぶどうりすもんへい)、中国、清時代。
「ブドウの蔓の間をよく見ると、小さなリスが隠れています。たわわな実をつけるブドウと多産とされるリスの組み合わせは、子孫繁栄を意味する吉祥文です。」
紫色龍文鉢(むらさきいろりゅうもんはち)、中国、清時代『乾隆年製」銘。
「内面に向かい合う2匹の龍と霊芝文(れいしもん)が掘り出されています。ガラスの表面を削って文様を浮かび上がらせる技法を彫琢(ちょうたく)といいます。」
松浦玉浦(まつうらぎょくほ)、草花文(そうかもん)デカンター・グラス、日本、明治後期〜大正時代。
「松浦玉浦によるエナメル彩の最大の魅力である、日本画のような色鮮やかで繊細な表現が味わえる作品です。」
青野武市(あおのたけいち)『金赤被木蓮文蓋物(きんあかきせもくれんもんふたもの)』、日本1988年。
「(冒頭写真の作品と)同じく金赤によって木蓮が表現されていますが、地に緑色のガラスが使われているため、落ち着いた雰囲気の作品となっています。」
青野武市『紫被牡丹文花器(むらさきぎせぼたんもんかき)』、日本、1993年。
「器の形に沿うように牡丹が花開いています。輪郭のぼかし方の変化が陰影のような効果を生んでいます。」
岩田久利(いわたひさとし)、花器、日本、1990年。
「濃淡二色の青色ガラスで表された文様は、まるで渦を巻きながら勢いよく流れてゆく水流のようです。久利はこれを『流影文』と称しました。
市立博物館のコレクションの歩みを辿った名品約35点が展示された最終展第1部、かなり見応えがありました。
今日から開催の第2部では、コレクションの中でもガラスと陶磁器にスポットを当て、〈赤〉と〈青〉という象徴的な色に着目して選んだ古今東西の作品約100展が並ぶそうで、こちらも期待できますね。
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